Skip to content

2021年2月号

『認知症と難聴』 -Part II-

今回も先月と同様「難聴と認知症」の関係についてご紹介をします。先月号はこちらよりご覧になれます。

前回ご説明した中の重要なポイントを改めて整理致します。

認知症は、現代の医療技術をもってしても抜本的な治療を施すことが困難な病であり、年々その患者数は増え続けています。

厚生労働省が発行した「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」によると、4年後の2025(令和7)年には約700 万人、65 歳以上の高齢者の約5人に1人に達することが見込まれています。そして、この認知症は、加齢、遺伝性のもの、高血圧、糖尿病、喫煙、頭部外傷、難聴 等が危険因子として取り上げられています。

 

「難聴も認知症の危険因子の1つ」として取り上げられたことで、きこえや難聴に対する意識、それをケアする考え方も変化しつつあります。今回は、難聴と認知症の因果関係の根拠となる発表や研究についてご紹介をします。

 

■根拠となる発表・研究
     医学誌ランセットでの発表

2020年、世界的に権威のある医学誌ランセットが「認知症の約40%は予防可能な12の要因により起こると考えられる。そのなかで最大のリスク因子は難聴である」と発表されました1

1 Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission, P413: The Lancet Commissions

ランセット誌によると、認知症の多くの研究で分かってきたこととして、認知症に関する危険因子は全体の40%が解明されてきたとしています。

その危険因子とは、人の人生の中で若年期、中年期、それ以降という年代別に分けて捉え、それぞれの年代で注意すべきリスク要因が存在するとされています。その中で中年期において難聴が全体の中で8% 2のリスク要因があるとしてします。

その他の因子として、喫煙(5%)、鬱(4%)、社会的孤立(4%)、高血圧(2%)、アルコール(1%)などがありますが、いずれも難聴(8%)を上回るものはありません。つまり、認知症の発症を未然に防ぐ上できこえについてケアすることが重要であり、きこえに衰えが出始めたら早期の対応が望まれます。

Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission, P428: The Lancet Commissions


●米ボルティモア縦断加齢研究 (
20112月)

ジョンズ・ホプキンス大学「認知症と難聴の研究」 Frank.R.Lin博士 他

米ジョンズ・ホプキンス大学耳鼻咽喉科学の Frank R. Lin氏らは、ボルティモア縦断加齢研究(BLSA)の中で認知症のない639例について平均11年以上にも渡る追跡をおこない、難聴による認知症発症へのリスクを調査・検討をしました。

その結果、軽度難聴例の認知症発症リスクは聴力正常例に比べて約2倍、高度難聴例は約5倍高いことが分かりました。

 

難聴が重くなればなるほど、脳への音情報の刺激が少なくなればなるほど、認知症のリスクが高まることが判明しました。難聴をケアする場合でも難聴度が軽い間にケアをしていくことが必要となります。

 

●全米国民栄養調査(NHNES)

知能検査による知能評価と聴力の関係

 

一方、Frank R. Lin博士らは、全米国民栄養調査において、知能評価と聴力との関係(DSST)についても調査致しました。その結果、聴力レベルの悪化とDSSTとの間に有意な関連があり、25dBの聴力低下に伴う認知機能の低下は、7歳の経年変化とほぼ等価であると試算されました。聴覚からの情報と脳機能との密接な関係が浮かび上がっています3

Stepwise regression Models of the Association of Hearing Loss and Hearing Aid use with digit symbol substitution scores, National Health and Nutritional Examination Survey 1999-2002

「認知症と難聴」の小冊子

GNヒアリングでは、認知症と難聴について広く知っていただき、きこえに対する意識を高めてもらうため、これまで紹介してきました情報をまとめた小冊子「みんなで知ろう! 認知症と難聴」という小冊子を作成しています。是非多くの場でご活用していただき、「認知症と難聴」、つまりは「きこえと脳」の深い関係について理解を広めて頂きたいと思います。