Skip to content

 

2020年3月号

 

「難聴になると認知症を発症するリスクが上がる」ということは今更申すまでもありませんが、エビデンスとなる研究も世界各国で発表され、WHOや日本の厚生労働省も認めることとなっています。

一方では難聴になりやすい危険因子(病気、生活習慣 など)についてはどうかというと、こちらも多くの研究によって因果関係が指摘されるようになってきました。ここでは、そうした難聴に掛りやすいいくつかの要因をご紹介します。

【1】喫煙と難聴の関係


約5万人を対象とした国立国際医療研究センターが中心となった大規模コホート研究により、喫煙によって難聴のリスクが高まることが判明しています。喫煙によりニコチンの毒性が聴覚器へ影響を及ぼし、 喫煙に伴うカルボキシヘモグロビン増加や血液粘度上昇により、内耳の有毛細胞が虚血を引き起こすと推測されています。一方、喫煙者が禁煙することによって、聴力低下のリスクを抑えられることも実験データから判明しています。

【調査方法】

この調査は、関東の8社の企業に勤務している20歳~64歳の男女、50195人について行われました。対象者の2008~10年の健診データと喫煙状態の情報を提供してもらい、その後の聴力低下について2016年まで追跡調査されました。その結果、その中で約3500人に高音域の低下、約1600人に低音域の聞こえの障害が認められています。

【結果と分析】

分析の結果、たばこの本数が多ければ多いほど聴力低下のリスクが高まり、1日21本以上煙草を吸う人は吸わない人に比べて高音域で1.7倍、低音域で1.4倍リスクが高い結果となりました。



また一方、過去に喫煙の経験のある方で5年以上禁煙していた人は、聴力低下のリスクは吸わない人と殆ど同じであったとの報告もされています。


【考 察】


ニコチンの毒性や血流の悪化などがもとで、内耳の有毛細胞の働きが落ちると推測されています。この現象は、現在利用頻度が上がっている電子加熱式たばこもニコチンを含むため同様であり、内耳の細胞に影響して聴力低下のリスクを高めることに変わりは無いとされています。

聴力は、年齢と共に高音域を中心に徐々に低下していきます。別の研究で、聴力の低下は認知症にかかるリスクを高めることも指摘されているため、単に聞こえの問題だけに留まらないことを喫煙者は自覚すべきでしょう。



【2】糖尿病患者における難聴のリスク

糖尿病患者においては難聴が伴う頻度が高いことは様々な研究で報告されています。その多くが徐々に進行する左右対称性の高音漸傾型感音難聴であるとされています。糖尿病の人は、そうでない人にくらべ、難聴の発症リスクが最大で約3倍に増加するという知見も発表されています。一方、糖尿病患者は時に片耳に突発性難聴を起こし、高・重度難聴になるケースなども報告されています。

糖尿病と他の障害との関係性において、視力障害、心臓病、腎臓病を引き起こす危険性などを指摘されることは良く知られていますが、一般的には糖尿病と難聴との関連性についてはあまり知られていないのも現状です。ここでは、新潟大学医学部血液・内分泌・代謝内科学講座の曽根教授らの研究についてご紹介します。内容は、米国内分泌学学会が発行する「Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に発表されたものの要約になります。


調査方法

この調査は、合計2万194人(うち糖尿病患者7,377人)を含む13件の横断研究をメタ分析されたものです。聴覚障害については、2kHz以上の周波数範囲を含む純音聴力検査法によって評価されました。



結果と分析

ほぼすべての研究が、糖尿病と聴力障害の高い有病率との関連を示しました。糖尿病の人々は、糖尿病でない人々より、聴覚障害のリスクが2.15倍高いことが分かった。



また一方、加齢の影響を取り除いてもこの影響は認められた。60歳未満の人々では、60歳以上の人々より、糖尿病と聴力障害の関連は強くなった。60歳未満の人々では、糖尿病は聴覚障害のリスクは2.61倍に上昇した




【考 察】

糖尿病患者は様々なリスクを抱えているが、上記の結果などから糖尿病患者は「早い時期から聴覚障害の検診を受けたほうがよい」と研究者は述べています。



前号はこちら

次号はこちら