医療・教育関係者向け臨床セミナー実施
7月21日(日)13時よりTKPガーデンシティ―プレミアム京橋で「2019年度医療・教育関係者向け臨床セミナー~難聴と補聴に関する最新の研究について~」を開催し、約160名の方々に参加していただきました。
今回は、慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科教授の小川郁氏を座長に迎え、同氏を含む国内の著名な医師2名とオーストラリア国立音響研究所のドクター(Au.D)による講演と続けられました。
7月21日(日)13時よりTKPガーデンシティ―プレミアム京橋で「2019年度医療・教育関係者向け臨床セミナー~難聴と補聴に関する最新の研究について~」を開催し、約160名の方々に参加していただきました。
今回は、慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科教授の小川郁氏を座長に迎え、同氏を含む国内の著名な医師2名とオーストラリア国立音響研究所のドクター(Au.D)による講演と続けられました。
座長講演では、慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科教授の小川郁氏より、「難聴をとりまく最新医療慢性感音難聴への挑戦」と題して最新の研究情報が提供された。その中で、人口の約10%に難聴があり、そのうち65歳以上は45%、身障者レベルの難聴者数は40万人以上とされている。また、2025年には、難聴者が1400万人~1500万人と推測され、そのうち認知症や軽度の認知障害がある人は約700万人と推測されている。難聴を放置するとコミュニケーション障害や社会活動が減少し、認知症やうつ病になるリスクが上昇するほか、要介護率や医療費の支出も高まる。世界耳の日に合わせWHOは、「聴力を確認しよう」というキャンペーンのもと、難聴早期発見用のアプリを開発した。さらに、2017年にLancetで、改善できるリスク因子として難聴が挙げられている。
内耳再生医療の最前線では、有毛細胞を再生する遺伝子としてAtoh1やMath1が紹介されている。また、支持細胞から有毛細胞を誘導する際に細胞間の情報伝達を担うノッチシグナルを抑制するγsecretase(ガンマセクレターゼ)阻害薬をマウスに局所投与後、有毛細胞が再生され約10dB聴力が改善したという研究報告が紹介された。現在、ハーバード大学と慶應義塾大学との共同研究が同薬を用いて行われており、人を対象に臨床治験も始まっている。
一方、iPS細胞の最新研究では、2015年に分化誘導法が確立し、試験管内で有毛細胞や支持細胞等が培養可能になっているが、高額な費用が掛かること、細胞が容易に癌化すること、いかに正確な場所に細胞を生着させるか等の課題があることも紹介された。
基調講演1では、済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科主任診療科長の新田清一氏より、「軽度・中等度難聴者の補聴器診療」というテーマで聴力に応じた患者の特徴や対策を紹介された。同院では軽度難聴・中等度難聴者が8割を占める。その1/3を占める水平型の聴力は中等度難聴が多く、テレビの音量が大きく会議での聞き取りに困難を覚える。また周囲にも難聴を指摘されることが多く、本人も難聴を自覚している。また、高音漸傾型の難聴者で1kHzの聴力が40dB未満の場合は軽度難聴が多く、時々聞き取りづらい場面があることを感じ、健聴者と同様に聞きたいという願望を抱いている。同様に1kHzが40dB未満の場合や1kHz以降が急墜型の聴力型を示す場合も1kHzの利得を十分に入れ、イヤモールドで対応している。患者の状態や要望に応じ、きこえを最大限に活用する目的で極力イヤモールドを使った装用を最初から奨めている。低音障害型の感音障害者は、補聴器装用と非装用の違いを把握しにくいため、医師が補聴器装用と非装用の違いを説明する必要があると締めくくった。
基調講演2ではオーストラリア国立音響研究所のエリザベス・コンベリ氏より「補聴器の遠隔サポート技術を用いた臨床研究」というテーマで講演された。世界では13億人に聞こえにくさがあり、その80%は低・中所得層の国々に住んでいることや、先進国でも約35%しか補聴器を使用していないという現状を紹介した上で、遠隔で聴覚を管理する聴覚ヘルスケアの概要や難聴者が補聴器を購入するまでの流れを踏まえて聴覚ハビリテーションを行うまでの流れを概説した。また、難聴者やオージオロジストなど総勢214名を対象として質問紙調査と面接を行い、87名の対象者を遠隔サポート使用群と非使用群に分け、その有効性と課題を検証した。その結果、「使い方を簡単に理解できた」、「予約を取る手間や、調整のために通う時間の削減、アプリで質問がしやすい」など遠隔サポートを使用することの利便性が認められた。一方で、アプリ内にあるアンケートの選択肢についてユーザーが抱える状況と一致するものがないという指摘があったことも今後の課題として報告された。
セミナーの最後には、小川氏、新田氏、コンベリ氏が揃って登壇し、パネルディスカッション形式で、会場の参加者からの質問に答えるなど活発な意見交換が行われた。