Skip to content
2019年4月号

論文タイトル

事業研究:補聴器の微調整において、遠隔サポート調整と対面調整とではどのような違いを生むか

 

はじめに

遠隔通信の技術を使用して、ヘルスケアや教育の内容を向上しようとする方法を総称してテレヘルスと呼ぶ。これらの技術はヘルスケアの専門家が提供する対応を考える上で必要な要素になっている。一方、このヘルスケア同様、テレオーディオロジーは装用者の期待に応え、サービスが向上する可能性はあるが広く普及していない。さらに、クラウドを用いて聴覚ケアの専門家(Hearing Care Professional 以下;HCPとする)と補聴器装用者の意思疎通を円滑にする試みも始まっている。リサウンドアシストは、補聴器装用者がリサウンド3Dアプリ(以下;アプリとする)を使って補聴器の調整をHCPに依頼する仕組みである。
依頼を受けたHCPは文章で回答するか、調整結果(パッケージ)を補聴器装用者に送り、装用者側はスマートデバイスと補聴器がワイヤレスでつながっていることを利用して、その設定を補聴器に取り込むことができる。今回、補聴器の調整を遠隔で行う場合と対面で行う場合の質の違いがどの程度があるかを検証するために客観的な評価と主観的な評価を行った。
リサウンドアシストの使用感と操作性についても検証した。

 

【実験方法】

対象

被験者の年齢は58歳~79歳(平均年齢67.1歳)、男性11名女性3名の14名であった。聴力レベルの平均は、
低い周波数から高い周波数にかけて20dB~80dBの緩やかな高音漸型の聴力図を示した。全被験者が携帯電話を所有し、
10名がアプリ対応の携帯電話を使用していた。

実験の流れ

 

 

A

B

主観的評価

初回

対面で調整を行い、P1プログラムを設定

質問紙、GOSA7

2回目

対面 P1調整

P2調整

遠隔 P1調整

P2調整

質問紙、GOSA7

3回目

遠隔 P1調整

P2調整

対面 P1調整

P2調整

質問紙、GOSA7

4回目

アプリ対応の携帯電話を持っている場合、遠隔リクエストを使用して調整。

質問紙

[初回の調整]

全員が両耳にLINX3D962を装用し、対面で調整を行った。メーカー推奨のターゲットルールと調整方法を採用し、微調整はせずに標準プログラム(P1)で実施した。 補聴器装用時にGottinger 7文章テスト (以下GOSA7とする) が実施され、正答率が50%になるSN比を求めた。また、調整結果を検証するために実耳測定を行い、その後は通常の生活を1週間過ごし、質問紙を持ち帰り1週間の出来事を記録した。

 

[質問紙]

  • International Outcome Inventory for Hearing Aids (以下;IOI-HAとする)以外に、騒音下での音声聴取や音の検知、音源定位など補聴器の効果についてSpeech, Spatial andQualities of Hearing Scale (以下; SSQHとする)より質問を抜粋した。また、聞き取りの労力について主観的に評価をするためGerman Listening Effortより数問抜粋して実施した。

※Gottinger Sentence Scale 7は静寂下と騒音下で語音了解閾値を測定する方法。日常生活を反映した文章を刺激として用いている。語音了解閾値を正確に短時間で得られるようにしている。

 

[2回目の調整-1週間後]

被験者を無作為に7名ずつに分け、対面で調整をするA群と遠隔サポートで調整をするB群とした。ここでは騒音下での聴取に適したプログラム(P2)を加え、騒音下で聴取する実験条件を設定して、微調整が必要な環境を作った。

[A群]P2は、HCPが被験者の発言や騒音下聴取実験をもとに調整した。また、1週間の様子を伺いP1も調整した。調整時のHCPと被験者の会話を録音し、後日分析を行った。

[B群]アプリの操作方法と遠隔サポートの使用方法を学び、HCPと別室で遠隔サポートを使ってP1とP2の微調整を行った。技術の使用感を見るドイツ語版のSystem Usability Scale (以下SUSとする)に回答した。

[両群共通]GOSA7を使ってP1とP2の評価を行い、実耳測定も行った。初回の調整と同じ質問紙に記入をした。

 

[3回目の調整-2週間後]

A群が遠隔サポートでリクエストを送り、SUS ドイツ語版に回答し、B群が対面での調整を行った。両群とも、GOSA7を使ってP1とP2の評価と実耳測定、1度目と同じ質問紙に回答した。

 

[4回目の調整]

アプリ対応の携帯電話を使用する10名は、追加で4週間補聴器を装用した。再調整はアプリを介して遠隔サポートで依頼をし、最後の調整前に、質問紙へ回答した。

【結果と考察】

2つの方法を用いて調整した結果を検証するため、語音了解閾値や主観的な評価、実耳測定を行った。また、遠隔サポートでリクエストを送る2回目と3回目の調整時には操作性を確認した。さらに、好みの調整方法とそれぞれの調整方法の利点や欠点を被験者目線から明らかにすることも目的とした。

語音了解閾値の結果

2回目の調整でP1とP2を調整した。調整方法に基づきGOSA7の成績を比較したが、有意な差はみられなかった。また、プログラムを切り替え、GOSA7を使った聴取実験の結果を比較すると、調整方法よらず、P2の結果の方が平均でS/N比が約1dB良い結果となった。3回目の調整で両群の調整方法を入れ替えた場合も同様の結果となった。さらに、初回の調整結果と比較しても両群の間に語音了解閾値の成績の差に大差はみられなかった。

図1にP1で語音了解閾値の評価を行った際の個別成績の変化を示す。今回は、臨床的に有意な差を2㏈の違いとした。初回と最終回の語音了解閾値検査結果を両群で比較すると、B群の1名で初回より3回目の方が語音了解閾値の成績が低くなったが、今回は被験者者が少ないため絶対的な結論を導くことは難しい。

しかし、いずれの方法でも、被験者に影響はないと考えられる。また、今回の被験者は同年齢の人達の中でも携帯電話等のテクノロジーの扱いに慣れていたため、引き続き使用することができたといえる。さらに、今回は一方の調整方法よりもう片方の調整方法が優れているという結果にはならなかったものの、最初は対面で調整を行い、その後は期間を置いて対面で調整を行うという従来の方法を用いている。

このことは、遠隔サポートを導入する場合には、最初に対面で調整を行い、補聴器を通して聞いた音を遠隔サポートを通じて相手にどのように伝えるかについてトレーニングを受けながら、遠隔サポートの効果的な使い方を習得することが重要であることが示された。

 

図1 P1における語音了解閾値の変化

主観的な評価の結果

初回から3回目の調整のいずれについても、両群でIOI-HAの成績に有意な差はみられなかった。具体的には、最初にIOI-HAに回答したときよりも低い結果となったが、これは長期的に補聴器の主観的な評価の変化を追った従来の研究と同じ傾向となった。聞くことの利点と聞き取りの労力について尋ねた追加の質問の結果も、先の結果と同様、両群間や調整をする回数の中で大きな差はみられなかった。このことから、調整手段によってその結果に殆ど差が出ないということが伺える。

図2にP1を調整した初回と2回目の微調整の結果を示す。65dBで呈示したLTASSの結果を示す。両群は無作為に分けた別々の人のため、微調整の結果が両群で同じとは考えにくく、実際には異なっていた。
初回の調整では、B群の調整幅は1dB~2dBであり、A群の微調整幅は初回の設定と比較して1dB未満であった。今回の実験結果から結論づけをすることはできないが、対面で調整をした場合は、抱えてい図2にP1を調整した初回と2回目の微調整の結果を示す。65dBで呈示したLTASSの結果を示す。両群は無作為に分けた別々の人のため、微調整の結果が両群で同じとは考えにくく、実際には異なっていた。

初回の調整では、B群の調整幅は1dB~2dBであり、A群の微調整幅は初回の設定と比較して1dB未満であった。今回の実験結果から結論づけをすることはできないが、対面で調整をした場合は、抱えている問題が周波数特性の調整かカウンセリングで解決される問題なのかを判断しやすいと示唆される。一方、遠隔の調整において遠隔で得た情報を分析して行動する必要がある。

そのため、補聴器の設定を変更して対応する傾向にあることがA群の微調整が少なかったことから言うことができる。2回目の調整では、両群間で調整方法を変更した。
両群において、初回や2回目の調整と比較して最終的な結果は異なっていた。最大の調整幅は初回の調整から1dB~3dBの間であった。この結果より、微調整を行うために、HCPは従来の調整方法に従っているので、対面と遠隔の調整手段によって調整幅に大きな変化はみられないと考えられる。

図2 P1を調整した初回と2回目の微調整の結果

遠隔サポートの使いやすさ


図3にSUSドイツ語版の評定を示す。この評価の中央値は90点であり、遠隔サポートの使用感は非常に良いということを示している。また、アプリ対応の携帯電話を所有していた被験者10名が1か月後に同じ調査を行ったところ、同じ点数であった。これは、GN Hearingで補聴器装用者を対象としてアプリで行った質問紙で、遠隔サポートが簡便であるといった声や、比較的若い装用者を対象とした結果とも一致している。
臨床では、初めて携帯電話を用いたテレオージオロジー機能を伴った補聴器を使用する場合、装用者が自信を持って使いこなすには、練習を重ねねるとともにHCPの手厚い支援が必要だと推測される。

図3 SUSドイツ語版の評定

対面での調整と遠隔サポートの利点と欠点について

 表1に対面での調整と遠隔サポートを使った調整の利点と欠点について被検者から聴取したものをまとめた結果を示す。

 

 

対面での調整の利点

 

対面での調整の欠点

 

・問題に着目することができる

・問題点を明確に伝え、対話を通じて問題点を掘り下げ、解決に導くことができる

HCPと直接話すことができる

 

・調整の予約や店舗への訪問が大変

・調整をしてもらうまでに店舗で待ち時間がある

・前回の訪問から今日までの間に起こった出来事を思い出すのが難しい

 

遠隔サポートの利点

 

遠隔サポートの欠点

 

・店舗まで行く必要がないことや、調整のための時間を確保する必要がないので便利

・遠隔調整のリクエストや届いたプログラムを補聴器に取り込みやすい

 

・やりとりに人間味がないと感じる

・技術面に対する不安がある
・選択式の問題点の提起は、困っていることを伝えにくい



表1 対面での調整と遠隔サポートを使った調整の利点と欠点

被検者が好む調整方法


自身が好む調整方法について5段階で回答した。図4に好む補聴器の調整手段の傾向を示す。その結果、片方の調整方法を強く好む者はなく、多くの被験者が「どちらでもよい」と回答し、5名が「どちらかというと対面を好む」傾向にあり、3名が「どちらかというと遠隔サポートを好む」傾向にあった。これは、途中の調整段階において遠隔サポートを補助的に使用することにより、利便性やアクセスが向上することを示唆している。

図4 好む補聴器の調整手段の傾向

まとめ

本研究では、対面による調整と遠隔サポートを使用した調整による質について検討した。その結果、S/N比の成績、微調整や質問紙を使った評価のいずれにおいても調整手段による有意な差がないことが示された。初回に対面で調整を行った後に、遠隔サポートを導入するという流れは従来の方法に沿っているため、自然な流れになると考えられる。また、今後の補聴器装用者は、今回の被検者よりもテレオロジーに対する能力が高くなる可能性があるため、この方法は良好な結果を導く手段となることが予想される。

操作性と補聴器装用者の主観的な側面も今回検証した。遠隔サポートの感想は操作性が非常に高く、簡便に使用できるという利点が挙げられる。また、インストール時に電池をあまり消耗しないというのも特筆すべきである。被験者の多くが遠隔サポートと対面での調整のどちらかを強く好むことが少ないことから、これらの方法は互いに補完しあうことで、より良い聴覚ケアを提供していくことが可能となるであろう。

 

参考文献(抜粋)

Bentler, R A., Niebuhr D P., Getta J P., Anderson C V (1993). Longitudinal Study of hearing aid effectiveness.
Ⅱ: Subjective measures. Journal of Speech,  Language and Hearing Research 36(4), 820-831.

Humes L. E., Wilson D L., Barlow N N., Garner C B., Amos N (2002) Longitudinal changes in hearing aid
satisfaction and usage in the elderly over a period of one or two years after hearing aid delivery. Ear and Hearing 123(5), 428-438.

Montano, J, Angley G, Ryan-Bane C., et al (2018) eAudiology: Shifting from theory to practice. Hearing Review, 25(9): 20-24.



次号はこちら